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幼い頃のあの日あの時が、何かの原点だったりするものなのかも知れません
そのお集まり会は、学校の裏山の広場が集合場所だったので、子どもたちは、それぞれがそれぞれの足取りで山道を登って行きました。
あれは正確には、いくつだったのかな?
きっとまだ二年生くらいだったはずです。
歩幅の広い上級生たちが、コチサの横を抜いて行くとき、その会話が耳に入りました。
「鎌(かま)もってきた?」
「うん、草刈りするんでしょ。忘れたら大変だもんね」
それを聞いて、びっくりしました。
コチサは、そんな話は聞いていなかったからです。
だから、鎌(かま)なんて持っていません。
でも 「忘れたら大変」という言葉に激しく動揺していました。
「カマ、もってない・・・どうなっちゃうんだろう?」
その頃(実は、今もそうですが)コチサは、とても気が小さく、人見知りでおどおどした子どもでした。
知らない人と、口を聞くことなんて出来ない子どもでした。
「どうしよう・・・おうちに取りに帰るには遠すぎる・・・」
意を決したコチサは、見知らぬ一軒の農家に駆け込みました。
「おばちゃん、カマを貸してください。お集まり会で使うんですけど、忘れてしまいました。おばちゃん、カマを貸してください。必ず返します」
一気にまくしたてました。
家族以外の人と、こんなに話したのは、はじめてのことでした。
そのおばちゃんは、にっこり笑って快く貸してくれました。
「ありがとう」
そう言ってコチサは、自分がどこの誰だか名乗ることもせずに、鎌(かま)をもって駆け出しました。
裏山では、すでに生徒が集まりだしています。
自然に、一年生の集まり、二年生の集まり、三年生の集まりと、グループが出来ています。
コチサは、その中の自分のお友だちがいる輪に入って行きました。
お友だちが聞きます。
「あれっ、さっちゃん、なんでカマなんてもってるの?」
「えっ?、今日、草刈りやるんでしょ。みんなカマをもってくるんでしょ」
「えー、誰ももってないよぉ」
何が起こったんだろう?
どういうことなんだろう?
じゃぁ、あの山道で聞いた会話は何だったんだろう?
そして急に、こんな大勢のみんなが集まっている中、ひとりだけ鎌(かま)をもっている自分がすごく恥ずかしく、パニックになっていました。
コチサは、誰からも見えなくなる場所まで走り、その草むらに鎌(かま)を捨てました。
お集まり会も無事に終わり、みんなが裏山からいなくなった頃、コチサは必死で鎌(かま)を捜していました。
でも、どうしても見つかりません。
そして、コチサは、あの一目散に駆け込んだ農家がどこの家だったのかも覚えていませんでした。
泣きながら家に帰り、お父さんとお母さんに、経緯を話しました。
お父さんとお母さんは、人に迷惑をかけることを極端に申し訳なく感じる人たちです。
見つからない鎌(かま)の代わりに、新しい鎌(かま)を買って、あの農家のおばさんの家を捜しだしてくれるはずだと思っていました。
ところが・・・ お父さんもお母さんも、コチサの話をいっこうに信じません。
「お前が、よその家に飛び込んで行って、鎌(かま)を貸してくださいなどと言えるわけがない」
と、全く相手にしてくれないのです。
どんなに泣いても頼んでも、絶対に信じてもらえません。
子ども心に、心が痛くなるということをはじめて知りました。
その出来事から、もう何十年も経っているのに、いまだに夢を見ます。
そしてそのたびに考えます。
あのおばさんは、今どうしているだろう?
いきなり泣きそうな顔で飛び込んできて、必死で鎌(かま)を借りに来た子どもの事を覚えているだろうか?
そして結局、その鎌(かま)を返しに来なかった子どもをどう思ったんだろう?
もしかしたらあの鎌(かま)は、普通の鎌(かま)ではなくて、おばさんにとって大事な鎌(かま)だったら、どうしたらいいんだろう?
その時の事を思い出すと、今でも胸の中にとても大きな石を飲み込んでいる気分になります。
そしてある時突然、思ったのです。
コチサがこんなに全てを懸けてでもやり続けたい「おはなしピエロ」の起源は、あの日あの時あの出来事にあるんだと・・・